
高度化PICS対応の信号機とつながってみた
家の前にある信号機が高度化PICSに対応していたので、iPhone 16 Proとつながってみました。
目次
PICSと高度化PICSって?
まず、街中の信号機に備わっている「PICS」というシステムと、その進化形である「高度化PICS」というシステムについて簡単に説明します。
PICS(Pedestrian Information and Communication Systems、歩行者等支援情報通信システム)とは、視覚に障害のある歩行者が、信号機の情報を音声で把握できるように設計された支援システムです。このシステムでは、光通信を用いて専用の送受信機(リモコン型の端末)と信号機の間で情報をやり取りします。歩行者が送受信機を携帯して信号機の近くに近づくと、信号機から送信された情報を受信して音声で信号の状況を知ることができます。これにより、視覚に障害のある方でも安全に歩行することができます。
しかしこのPICSは、専用の送受信機を購入する必要があるという欠点がありました。そこで、2020年から「高度化PICS」の導入が始まりました。このシステムではBluetoothを活用し、専用の送受信機がなくても、アプリをインストールしたスマートフォンさえあれば利用できるようになりました。
令和2年度からは、高度化PICSとして、Bluetoothを活用し、スマートフォン等に対して歩行者用信号情報を送信するとともに、スマートフォン等の操作により青信号の延長を可能とした、高度化されたシステムが導入されています。
一般社団法人UTMS協会『歩行者等支援情報通信システム(PICS)』、2025年7月8日。
高度化PICSに対応した信号機には「BLE1路側機」が設置されており、この中に入っているBluetoothモジュールとスマートフォンが通信する形になります。路側機が設置されている信号機では、スマートフォンを使って信号の状況を確認、音響の有効化、青信号の延長が可能です。これらの機能は、高齢者や視覚に障害のある方が安全に移動できるよう支援することを主目的としていますが、誰でも利用できるとされています。

BLE路側機が設置され、高度化PICSに対応している信号機のリストは、警視庁のウェブサイトの「高度化PICS整備交差点」で確認できます。我らが宮城県の対応交差点数が突出していますね。
スマートフォンには日本信号が開発した『信GO!』というアプリをインストールする必要があります。冗談みたいなアプリ名ですが、本当です。
高度化PICSでできること
現状、高度化PICSに対応した信号機と『信GO!』アプリでできることは以下の3つです。
信号の状況を見る・聴く
スマートフォンで歩行者用信号の状態を確認できます。信号機が青なのか赤なのか、あとどのくらいで青または赤になるのかを、信号機のイラストで確認できます。
もっと重要なのは、信号の状態をスマートフォンからの音声で聞けるということです。私の家の前にある信号機は音響式信号機ですが、住宅地に隣接しているためか普段は無音で、押ボタンを押さないと音が鳴らないようになっています。このシステムであれば、押ボタンを押して音を有効にせずとも、手元のスマートフォンで状況を把握できます。また、音を出しづらい環境や、聴覚に障害のある方の場合は、スマートフォンの振動によっても信号の状態を知ることができます。
音響を出力するための要求をする
前述の信号機のように、押ボタンを押さないと音が鳴らない音響式信号機に対し、スマートフォン上から音響の出力を要求することができます。視覚に障害のある方向けの機能になります。
青信号の延長を要求する
対応している信号機に対し、スマートフォン上から青信号の延長を要求することができます。高齢者向けの機能になります。
家の前の信号機は青信号の延長に対応していないので、この機能は試せていません。
横断を要求する
対応している信号機に対し、スマートフォン上から横断を要求することができます。わかりやすく言うと、押ボタン式信号の押ボタンをスマートフォンからの操作で押せるようなものです。健常者も活用できます。
渡ってみた雑感
アプリの出来がよくない
さっそく『信GO!』アプリをiPhone 16 Proにインストールして、家の前の信号を渡ってみました。はじめに言ってしまうと、アプリの出来はお世辞にもいいとは言えません。
アプリを初めて起動すると初期設定が始まりますが、設定完了ボタンを何度押しても先に進めないバグがあります。一度アプリを強制終了して起動しなおすと正常に動作します。初期設定で設定できる項目はひとつだけで、「信号を渡るにあたって、青信号を延長するなどの支援が必要か?」の選択です。これを「いいえ」にすると、青信号延長や音響の有効化などの機能が使用できなくなります。
初期設定が完了すると、「位置情報」「通知」「音声認識」「マイク」「Bluetooth」「モーションとフィットネス」の6つの権限が要求されます。これらのうち、モーションとフィットネス以外の権限はすべて与えなければならず、ひとつでも拒否すると「デバイスの準備ができていません」という不親切なエラーメッセージが表示され、アプリは動作しません。モーションとフィットネスの権限は歩きスマホを検出するために使うようですが、拒否してもアプリは使用でき、むしろ拒否することで歩きながらの操作が可能になります。
iOSの設定でテキストサイズを大きくしている場合、一部の文字列が画面外にはみ出します。高齢者や視覚障害者を主な利用者層として想定しているアプリではこれは致命的です。アプリの更新が3年前で止まっているので、最新のiOSに対応できていないのだと思われます。
音声と振動による通知はアプリがフォアグラウンドにないと動作しません。つまり、歩行中に通知を受け取るには、アプリを常に開いたままにしておく必要があります。電話やLINEなどほかのアプリを開いたり、iPhoneをスリープ状態にしたりすると通知は届きません。これはiOSの制約もあり、仕方ないのかもしれませんが…。Android版はアプリがバックグラウンドにあっても通知ができるようです。
…と、問題点を挙げればキリがありませんが、ちゃんとしたベンダーに開発を委託すべきだと思います。日本信号という民間企業による開発とはいえ、実質的には国民の税金が投入されているような公共性の高いアプリですから、もっと丁寧に作り込んでほしいところです。
普段は無音の音響式信号を渡る
家の前にある、ボタンを押さないと音が鳴らない音響式信号を渡ってみます。アプリを開いた状態で信号機に近づくと、iPhoneが振動して下記のような画面が表示されます。

GPSとBluetoothだけでは、ユーザーがどの方向に渡ろうとしているかを正確に特定できないため、アプリ上には交差点内すべての方向の歩行者信号の状態が表示されます。
音響要求が可能と表示されている場合、この画面の中央部分を5秒ほど長押しすると、赤文字で「音響要求を行いました」と表示され、次の1サイクルだけ音響が鳴動します。
アプリ内の音声や振動による案内だけで完結できるなら、あまり使う機会はなさそうな機能ではありますが、あったらあったで便利だとは思います。
押ボタン式信号を渡る
今度はちょっと歩いたところにある押ボタン式信号を渡ってみます。信号機に近づくとiPhoneが振動して下記のような画面が表示されます。

横断要求が必要と表示されている場合、この画面の中央部分を5秒ほど長押しすると、赤文字で「横断要求を行いました」と表示され、押ボタンが押された状態になります(実物の押ボタンも「おまちください」表示になります)。
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